株式会社ミズホメディー

ピロリ菌

ピロリ菌 検査と治療

監修:間部 克裕 先生 まべ五稜郭消化器・内視鏡クリニック 院長
日本ヘリコバクター学会 幹事
H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2024改訂版』作成委員

ピロリ菌とは

ピロリ菌は、世界保健機関(WHO)により「ヒトに対する発がん因子」と位置づけられている病原微生物です。

ピロリ菌はヒトの胃に感染します。胃には胃酸があるため普通の菌は死んでしまいますが、ピロリ菌は自分の周りの胃酸を中和することで生存することができます。
ピロリ菌が胃に感染すると慢性胃炎、胃潰瘍、胃がんなどの疾患を引き起こします。

ピロリ菌の特徴

ピロリ菌の感染経路


現在も明確な感染経路はわかっていませんが、ほとんどが経口感染によるものと考えられています。

ピロリ菌は幼少期に感染することがほとんどです。
井戸水や河川水を飲用水として使用していた時代は、汚染された水による感染が主だったと考えられます。上下水道が十分に整備された現在においては、母から子あるいは父から子への家族内での感染が主な感染経路と考えられています。

ピロリ菌と疾患の関係


ピロリ菌は胃がんなどの疾患を引き起こします。

ピロリ菌は胃の中でさまざまな病原因子・毒素を分泌し、感染者のほとんどが慢性胃炎になります。数年~数十年と長期間感染し続け、胃・十二指腸潰瘍や胃がんなどに進行することがあります。
日本では胃がん患者の98%がピロリ菌に感染していたというデータが報告されています
Uemura, et al., N Engl J Med 2001;345:784-789


ピロリ菌と疾患の関係
ピロリ菌感染 ~あなたは大丈夫?~

以下のいずれか一つでも当てはまる方は特に注意が必要です。

  • 幼少期に井戸水や河川水を飲んでいた
  • 幼少期に水洗式ではないトイレを使っていた
  • 家族の中にピロリ菌に感染した人がいる
  • 家族の中に胃潰瘍や胃がんになった人がいる
  • 胃痛、胃もたれなど胃に何らかの症状がある

ピロリ菌の検査

ピロリ菌の検査にはさまざまなものがあります。検査の特性や患者様の年齢・基礎疾患等を考慮して検査方法が選択されます。

内視鏡を用いる検査法


内視鏡検査では、口や鼻から内視鏡を挿入し、胃の内部を観察して、炎症・潰瘍・腫瘍の有無などを確認します。その内視鏡検査のときに採取した検体を用いて検査を行う方法です。

内視鏡検査
鏡検法

採取した胃粘膜組織を顕微鏡で観察してピロリ菌の有無を確認します。

鏡検法
培養法

採取した胃粘膜組織を培養し、ピロリ菌が増殖するか否かを確認します。

培養法
迅速ウレアーゼ試験

胃粘膜組織を採取し、ピロリ菌が持つ酵素(ウレアーゼ)により作られるアンモニアを検出する検査法です。

迅速ウレアーゼ試験
PCR検査(胃内液を用いる方法)

胃内液を採取し、ピロリ菌の核酸(DNA)を検出する高感度の検査法です。胃内液は内視鏡検査時に採取するため、患者様の負担が増えることはありません。感染診断と同時に、抗菌薬がピロリ菌に効きやすいかどうかも調べることができます。
※「薬剤耐性ピロリ菌」の項目を参照

PCR検査

内視鏡検査を行わなくても実施できる検査法

尿素呼気試験

ピロリ菌が持つ酵素(ウレアーゼ)の働きを利用した検査法です。検査薬を服用する前後の呼気(吐き出す息)の成分の変化により、ピロリ菌に感染しているか否か判定します。

尿素呼気試験
抗原検査

糞便を採取し、ピロリ菌の抗原を検出する検査法です。

※抗原:外から体に入り、体に免疫反応を起こす物質

抗原検査
抗体検査

尿や血液を採取し、ピロリ菌に対する抗体を検出する検査法です。
ただし、抗体検査では、現在感染しているのか、過去に感染していたのかを判別することはできないため、抗体検査の結果のみで除菌治療を行わないことが推奨されています。

※抗体:病原体に感染したとき、病原体を排除するために体内で作られる物質

PCR検査(糞便を用いる方法)

糞便を採取し、ピロリ菌の核酸(DNA)を検出する高感度の検査法です。
胃内液を用いる方法と同様、感染診断と同時に、抗菌薬がピロリ菌に効きやすいかどうかも調べることができます。
※「薬剤耐性ピロリ菌」の項目を参照

PCR検査

除菌治療

ピロリ菌に感染していることが判明したら、除菌治療を行います。
ピロリ菌の検査と除菌治療は図のような流れで行われます。


感染ありと診断された場合、まず一次除菌治療を行います。
そして一次除菌治療が成功したか否かを確認するために検査(除菌判定)を行います。
除菌成功の場合は経過観察に進みます。
除菌不成功の場合はさらに二次除菌治療を行い、その成否を検査(除菌判定)で確認します。


除菌後の経過観察の重要性

ピロリ菌を除菌すると胃がんのリスクは大幅に低減します。
しかし感染中に進んでしまった胃粘膜のダメージは残り続けるため、
除菌後に胃がんを発症することがあります。
早期発見のためにも、定期的に内視鏡検査を受けましょう。

定期的に内視鏡検査を受けよう!

除菌治療の注意点

除菌薬を服用するときに注意することはありますか?

除菌薬を服用する際は、医師に指示された服用方法をしっかり守ることが重要です。
薬を飲み忘れた場合や、途中で薬の服用をやめた場合は、十分に除菌できないことがあるうえ、除菌薬に耐性を持つピロリ菌(薬剤耐性ピロリ菌)が生まれてしまう可能性があります。
また、除菌の際には胃酸を抑える胃薬も処方されますが、飲酒や喫煙をすると胃酸の分泌が促され、除菌薬の効きが悪くなることがあります。
除菌薬は必ず医師の指示通りに服用しましょう。

除菌薬の副作用はどのようなものがありますか?

除菌薬を服用すると一時的に下痢・軟便・腹痛・味覚異常などの症状が現れることがありますが、医師の指示なしに自己判断で服用をやめないでください。

除菌薬の副作用の症状

もし1週間近く下痢が続いたり、便に血液が混じったりする場合は医師や薬剤師に相談してください。また、発熱や発疹が出た場合は、薬によるアレルギー反応であることが考えられますので、すぐに受診し医師に相談してください。

薬剤耐性ピロリ菌

薬剤耐性ピロリ菌とは


ピロリ菌の除菌にはいくつかの抗菌薬が使用されます。
ピロリ菌にはそれぞれの抗菌薬が効きやすいタイプと効きにくいタイプ(薬剤耐性ピロリ菌)が存在します。
薬剤耐性ピロリ菌に感染している場合、抗菌薬が効かず、除菌がうまくいかないことがあります。
そのため、ピロリ菌の除菌を開始する前に抗菌薬の効きやすさを調べ、抗菌薬を選択するうえでの参考にすることがあります。

抗菌薬が効きやすいタイプと効きにくいタイプのピロリ菌

抗菌薬の効きやすさを調べる検査とは


抗菌薬の効きやすさ(薬剤耐性の有無)を調べる方法として、「薬剤感受性試験」という検査があります。この検査は菌の培養が必要なため、結果が分かるまでに数日かかります。
他にもPCR検査により調べる方法もあります。これはピロリ菌の薬剤耐性に関わる遺伝子の変異を検出する方法で、抗菌薬(クラリスロマイシン)に耐性があるかどうかを約1時間で判別できます。

おわりに

監修者 間部 克裕 先生から患者様へのメッセージ

ピロリ菌の検査・治療の重要性


ピロリ菌は、多くは幼少期に感染して慢性胃炎を引き起こし、ほとんどの場合症状がないまま、気づかずに胃炎が進行してしまいます。
家族がピロリ菌陽性で除菌治療を受けた、家族が胃潰瘍や胃がんになったことがある、幼少期に井戸水を飲んでいたり、水洗式ではないトイレを使用していた場合の他、胃に何らかの症状がある場合はピロリ菌の検査を受けることが重要です。

学校での検査や会社・地域の検診でピロリ菌の検査を受けられる場合もありますが、血液や尿を用いた抗体検査だけでは、現在感染しているのかどうかの判断はできませんので注意が必要です。また、内視鏡検査やバリウム検査で萎縮性胃炎(ピロリ菌感染による慢性胃炎が進行した状態)の有無などからピロリ菌感染が分かることもあります。胃の検査を受ける際は、必ず医師にピロリ菌感染の有無を確認してください。

ピロリ菌は病原菌であり、胃炎、潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫などの原因になります。検査を受けて陽性だった場合は、速やかに除菌治療薬を服用しましょう。服用後は確実に除菌判定検査を受け、除菌が成功していることを確認しましょう。除菌成功後も胃がんリスクは残るため、医師の指示に従って1~2年毎の内視鏡検査を受けましょう。


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